嘘みたいだ、と思った。
こんな場所で――僕は、初めて同属と出あった。
ユーノ・スクライア、実に10歳の時の事。

運命――その人の名前は、月森冬馬。

たまたま、ユーノが一人で、地球へと来ていた時の事だった。

「咆哮?」

まるで、惹かれるように、ユーノはそちらへと向かって行った。
そこで、邂逅したものは。

上半身に黄金の毛皮を宿し、全身から燐光を放って立つ、黄金の獣人。
狼の顔をしたその獣人は、鬼と戦っていた。
目で終えないくらいに速く、そして、凄まじかった。

「…黄金、狼。」

思わず、と言った感じに洩らしたユーノは、その戦いをただ、見守っていた。
その時、同じく、見守っている女の人がいることに気づいた。

黄金の狼。
それは、ユーノのトラウマと言ってもいい。
だけど、それは、目の前のそれは、自身に根ざす傷とは、また違った雰囲気を持っていた。
その狼は、ただただ、後ろにあるものを失いたくないから、戦う。
力を暴走させる危険はなく、ただ、ひたすらに純粋に、戦っていた。

「綺麗だな…」

それは、ユーノが憧れた力。
誰かを護る為に、ひたすら、速く強く硬く。
そして、真っ直ぐだった。
その戦いの結末は、結局、悲しいことだった。
部外者であったユーノは、それでも、ただ、その悲しみの中、踏み出した。

「すいません、ちょっといいですか?」
「ん、なんだい?」
「どうしました、冬馬さん?」

それが、ユーノ・スクライアと月森冬馬との出会い。




その人に気高い志なんてなくて。
ただ、見捨てたくないものに手を伸ばしていただけ。
そのことが、ユーノの心を叩く。
まるで、それは、自身を救ってくれた、彼女のようだったから。
たった一度、ユーノは彼と話し、そして、知った。
知った思いは、本当にありふれていて、しかし、尊いもので。

「貴方達に会えてよかった。」
「また、会いに来てください。」
「歓迎するよ。」

そう言って、笑顔で別れた。
それは、悲しい別れなどどこにも感じさせない別れ。
なのに、何故か、嫌な予感が頭を離れなかった。
もう、会えないような、そんな、予感が。




次に――見たのは、崩れ去った町並みの中でだった。
突然、地球で起こった突発的な大地震の中で、その地に来たユーノが見たものは――死闘。
黄金の狼がその優美な毛皮を真っ赤な血で染め上げて、褐色の肌の男と戦っていた。
黄金の光と極彩色の力が飛び、その褐色の肌の人間を粉々にせんと飛んでいく。
呆然とそれを見ていたユーノは、その余波によって、まるで枯葉のように吹き飛ばされていた。

一体何がどうなっているのだろう、とユーノが起き上がったとき、戦いの音は聞こえなくなっていた。
静寂が辺りを包み込んだ一瞬、ユーノはよく分からない衝動に突き動かされるように、走り出していた。

血反吐を吐いて、ただ、護る、と呟き続ける、ボロボロの人を見つけた。
愛する人の腕の中でそれだけを口にするその人を、ユーノは目を離さずに見続ける。
それは、あまりにも悲しい光景で。

それから、ただ、見ていたユーノの目の前で、尊敬した二人の人は、消えていった。
まるで月に導かれるように、極彩色の光を放って、辺り一体に優しさを振りまく。
でも――やっぱり、悲しかった。
今度こそ幸せになりますように?
何故か、ユーノは全てを理解した。
冬馬は、病魔に蝕まれ死した体を動かすために、記憶を代償にした。
最後の最後には全てを忘れて――でも思い出して。
あまりにもな思い。

ユーノは空に浮かぶ月を見上げる。
その月は、煌々と光を放つ。

「もっと、貴方達と話したかった。」

ぽつりと呟くユーノの言葉はきっと月に届くだろう。
だけれど、どこからか、悲しそうな感情が返ってくるだけで。
分かっていたことだ、この願いが叶うことなどない、と。
その場にあった、粉々に砕け散った何かの粉を集めながら、ユーノは目を細める。

「来世…何て言っていいのかな…冬馬さん、深雪さん、今度は、不幸なんてなくて、幸せに。」

それはきっと虫のいい話。
だけれど、苦しい思いをした二人だからこそ、きっと幸せになって欲しかった。






あれから、5年が経った。
何も変わらず、ただ、ユーノは無限書庫司書長として働いている。
時折、ふと、冬馬と深雪に会いたくなる。
あの雪のような優しさに触れたくなる。




「…え?」




それは突然の出来事で。
ただ、血を流して倒れたなのはの姿がいつか見た誰かに繋がった。
それは――ユーノのトラウマであり、原初の記憶。
そして――最も深き、二人の姿。

たまたま来た場所で、巻き込まれた事件で、キメラが現れた。
違法実験を繰り返した果ての生物に、緋色の毛皮や、銀の毛皮を見つけて、ユーノは心が冷えた。
フェイトとなのはの魔法を吸収して立つその姿に、ユーノは更に心が冷たくなっていく。
夜の空を赤く彩る炎が上がって。

「エネルギーを吸い取ってる!」
「フェイトちゃん、危ない!」

割って入るのも間に合わなくて。
ユーノの目の前で、なのははそのキメラの爪を受けて、地に落ちた。
喉がカラカラに渇いていく。
フェイトが叫んでいたけれど、それは、聞こえなかった。
ただ、トラウマの感情のままに壊したくなって。
そして、二人の顔が浮かんだ。

それは、瑣末事だと割り切れるようになったからか。
ユーノは胸中で呟く。

顔も思い出せないお父さん、お母さん、ごめんなさい、僕はまた――殺してしまう。
でも――護りたいから。

「月よ、僕に力を!」

フェイトは、咆哮を聞いた。
キメラの前に立つ、黄金の光を全身に纏った人狼から放たれたその咆哮を。
うっすらと目を開けたなのはは微笑を浮かべる。

「キレイ――」

全身から黄金の獣気を漲らせ、心穏やかに、ただ、ユーノは守る事を考える。
大事なものを護る為にただ、真っ直ぐに。

黄金狼――ラグナウルフは、その力を、真っ直ぐに解放した。

――嘘予告終了


というわけで知っている人が知っている小説。
私、思いっきり泣いてしまったんですけど、上手く書けなかったなぁ。
『月と貴方に花束を』とのクロスでした。
ちなみに、ここでのユーノの設定も暗いです。


3歳時初めてラグナウルフに変身。
感情のままにはじき出した力は、暴走して、ユーノの両親をその手にかける。
本人はその時の事を明確に覚えている。
それゆえに、力に恐怖するようになる。


それで、色々と思い悩んで、狼の力は使わなかったり。
…もう少しだけハッピーにならんかったものかなぁ。





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